俺が城錠の元に弟子入りして大分経った。
自分で言うのもなんだけど、腕前はかなり上達したと思う。
城錠は相変わらず母さんとの事は自分からはあまり話さないけど、でも大体俺が想像したとおりの、いわゆるバカップル夫婦っぽい生活を送ってるみたいだ。
最近は城錠が何を考えているのか、口に出さなくてもわかるようになってきて、コミュニケーションもバッチリだ。

と思ってたんだけど。


「おい!もたもたすんな、さっさと木材運べ!!」

「う、うぃっす!」


今日は違う。


「なぁ雷斗。今日の城錠さんすげぇ荒れてねぇ?お前なんかしたんじゃねぇの?」

「なんで俺のせいなんですか、特になんもしてませんよ。」

「お前ら!!無駄口叩いてないで仕事しろ!!!」

「「はいっ!」」


ものすっっっげぇ機嫌が悪い。
元々無表情な城錠の眉間にやけに目立つ皺が一本、はっきりと刻まれてる。
正直、城錠を怒らせたような覚えは無い。
仕事はちゃんとしてるし、口は動くけどそれ以上に腕も動かしてる。
つーか、昨日城錠には「仕事の覚えも作業も早い」って褒められたばっかりだ。
今日は、俺が何かするより前から既に城錠の機嫌の悪さはMAXだった。
ガキのころからなんだかんだで城錠に世話になってきたけど、こんな風に荒れることはなかった。
あるとすれば、母さんが昔、城錠を家に呼んで昼飯作ってあげた時に、清四郎の話をしたら、突然機嫌が悪くなって飛び出したってくらいか?
だけど、あれ以来城錠が声を荒上げて怒鳴ったりするようなことはない。
理由もなくイライラする事なんて誰でもあることだけど…。

「ここ、寸法間違ってんじゃねぇか!やり直せ!」

「す、すんません!!」

ぶっちゃけ無茶苦茶怖い。母さんがキレた時並みに怖い。

「な、なぁ城錠…さん。」

「あ?なんだ雷斗。」

「な、なんかあったのか…いや、あったんデスカ…?」

「なんだそれは。」

「いや、だって、なんか今日すっげぇ機嫌悪いから…」

「悪くねぇよ!」

いや、その返事が既に悪いことを証明してますよ、お義父さん。
なんだってんだ、いい年してんのになんかすげぇ子供みたいな…。
…そう、そうだ。なんていうか、子供が拗ねてるみたいな感じなんだ、今日の城錠は。

「もしかして、母さんと何かあった、…とか?」

「何もねぇよ!さっさと腕動かせ!!」

…あったんだな。
それはそれで珍しいけど。
うーん。なんだろな、母さんと関わることでこんなに機嫌が悪くなるなんて…。
まさか、母さんの奴、この期に及んで清四郎の話でもしたのか…?
いや、母さんもさすがにそこまで鈍感じゃない。それに、例の学歴コンプレックスは乗り越えたはずだ。
だとしたらなんだ…?
母さんと堂島さんが話してるところでも見たのか?
いや、でもこの二人の間柄は城錠も知ってるはずだし・・・。


―キーンコーンカーンコーンー…



うんうん唸って脳内で自問自答を繰り返しているうちに、昼休みを告げる鐘が鳴った。
弁当持ちの奴らは適当な場所に腰を下ろしたり、そうじゃない奴は近くのコンビニに買出しに行ったりし始める。
城錠は毎日母さんの愛情弁当だからこの時間は外出したりしない。
…はずなのに。
城錠は眉間の皺をそのままに現場を離れようとしていた。



「あれ?弁当じゃないのか?」

「あぁ?!」

「うっ。」

やばい、なんか怒りのボルテージがあがった。なんだ、なんなんだよ。
つーか怖い!なんで金槌持ってんだよ!!暴力反対!!DV反対!!!!

「尚哉ー!」

身の危険を仄かに感じたところで、この場の空気に全っ然合わない声が割って入ってきた。

「…夏見。」

「あ、母さん。」

あぁ、持つべきものはお母様。城錠の表情がちょっとだけ怖くなくなった。
母さんはそれでもやっぱり不機嫌な城錠の元に駆け寄る。

「どうしたんだ。現場にくるなんて珍しいな。危ないからあんまりうろつくな。」

「『どうしたんだ。』じゃないでしょ。はい、お弁当!」

「・・・・。」

おーい、俺がいつの間にかそっちのけになってまーす。
とでも言おうかと思った位に、母さんはイイ笑顔で城錠にデカイ弁当を差し出した。

「…?箱が違うな。それに暖けぇ。」

「うん、だって尚哉、朝お弁当忘れて行ったでしょ?どうせ届けるなら出来立てにしたかったから。」

「…!わざわざ作り直して届けにきたのか…?!」

「そうよ~?…というわけで、雷斗。アンタにはこっちね。」

と、俺には、多分朝城錠が忘れていったほうの弁当を渡してきた。
ものすごく突っ込みどころ満載な感じを堪えて、それを受け取りながら俺は城錠を見やった。

「わ、悪ぃな。…サンキュ。」

「どういたしまして!」

うわー…。なんですかこの超幸せオーラは。
いつの間にか城錠の眉間の皺が綺麗さっぱりなくなって、バックではなんかパァァってな感じで花でも咲いてそうだ。よく見れば頬までうっすら紅いし。

つーか、これは、まさかとは思うけど。


「…なぁ、城錠?」

「なんだ?」

「今日、午前中ずっと機嫌が悪かったのって、母さんの弁当忘れたから…とか?」

「…別に。悪くねぇだろ。」

「いや、確実に嵐吹き荒れまくってただろ!!」

「え?なに、尚哉の機嫌そんなに悪かったの?」

「あぁ、これ以上ないくらい。」

俺があきれ返ってそういうと、母さんは、ぶっちゃけその年には似合わない、小悪魔的な笑みを浮かべた。

「もう、尚哉ったら。子供みたいなんだから。」

「うるせぇな!別に機嫌が悪いなんて一言も…!」

「はいはい、照れないの。」

「照れてねぇ!つーか、休憩中でもその辺に色んなもん落ちてて危ねぇんだから、早く家に戻れ、夏見。」

「はーい。」

うんうん。いつまでも夫婦円満でなにより。母親の幸せは息子である俺の幸せでもありますよ、かあさん。
でもなんでだろうね、なんかすげえ、思いっきり笑いがなら怒鳴りつけて泣きてぇ。
…つーか。


「いちゃつくんなら外に行け!このバカップル夫婦ー!!!!」






その後俺は、桜田麩でハートが描かれ、海苔で『尚哉&夏見』と書かれた弁当で止めの一撃を喰らうのだった。







― 煙を上げて飛び出した二人のロケット宙を舞うよ
  悲しみなんて地上に残しユラユラ揺れて彷徨うよ









                  song by GARNET CROW-二人のロケット-
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DEARMYSUN、城錠再婚ルートその後の話。
あー、城錠パネェ。夏見には本気で幸せになってほしい。



ところで話まったく変わりますが、最近のIQ○プリのナレーションすごいですね、司馬ちゅにシギーにしょうゆにしょこたんに周泰でてますよ。

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