夜明けが来ると確かめたら帰るんだ
2008年8月20日 SS「花火をするぞ!来なかったら摂政チョップだからな!」
という一言から全部始まった。
すっぽかしたかったけど、あの妙な攻撃を喰らったり、翌日すねて仕事をまたサボられると困るので付き合うことにした。
「で、花火ってこれですか太子。」
夏の風物詩を一気に満喫したい。と、どうしようもなく子供染みたわがまままで言い出したので仕方なく馬にのって海辺まで来た。急遽竹中さんと調子丸君も誘うことになり、いつの間にか話が大きくなっている。
後ろに太子を乗せて黒駒で海岸まで来れた調子丸君にびっくりだ。
そしていざ始めようとした時に、太子が取り出したのはたった数本の線香花火。
「線香花火だって立派な花火だぞ妹子!」
「そりゃまぁそうでしょうけど、始まりから締めまで線香花火じゃ虚しくなるだけじゃないですか。」
「そ、そんなことないわい!お前は風流さというものがわかって無いな!」
と言われても、葉月も半ばを過ぎれば季節もすでに次のステップに入ってるもので、昼間は伴侶を必死で求めるセミの声が聞こえ、夜になれば鈴虫の声が聞こえる。
正直、季節感は混沌としていてわかりにくい時期だ。
「って、太子!そっち火をつけるほうじゃなくて持つほうですよ!!」
「うそっ!?うわっあちち。ちくしょー、わかりにくいんだよこれ。」
僕の声に驚いた太子が思わず手を離す。
落ちかけたそれを反射的に取ろうとして火が付きかけた部分を思いっきり握ったようだ。そりゃ熱い。ついでにまどろっこしい。
僕は太子からマッチと花火を受け取り代わりに火をつけた。
…つけようとした。
「…太子。湿気ってませんかこの花火。」
「マジで?!ガーン!や、やっぱり使い古したティーバックと一緒にポッケに入れてたのがまずかったのか?」
「アンタまだそれ入れてたの?!捨てろっつったでしょアホが!!」
つまり僕は未知なる物が詰まっているポケットの中身の一部を掴んでしまったわけだ。マッチ含む。
最初に気付かなかった僕にも落ち度はあるとはいえ、今すぐ石鹸で手を洗いたい。そしてアルコール殺菌をしたい。
「チクショー!こうなったら星見だ星見!!ほら、寝っ転がれ妹子!!」
「嫌ですよ、敷物もなしに砂だらけにな…って、うわっ、ちょっちょっと!!」
何のためらいも無くその場で仰向けになったかと思えば、太子の意外に長いリーチの腕に捕まり引っ張られる。まさかの不意打ちに僕はバランスを崩した。
せめて顔面直撃は間逃れたいので無理やり体を捻って背中を打つ。くそ、微妙に痛かったぞ。
「ほらみろーすごい綺麗だぞ。」
「はいはい。」
いつも通りのマイペースさをいつも通りうまく御しきれない。
ため息混じりに僕は空を見上げた。
「…確かに綺麗ですね。」
「しかし、花火ちくしょう…。」
「聞いちゃいねえ。また来年にでもやればいいでしょう。」
「馬鹿だなー妹子は。」
他の誰になんと言われようと構わない。
だが、この人にこの言葉を言われるのはものすごく不快だ。腹立たしい。腸が煮えくり返る。
だけど、一言突っ込む前に言われた太子の言葉に、僕は完全にタイミングを見失った。
「来年もまた同じように過ごせるとは限らないだろ?」
「…え…」
僕は思わずアホ面で夜空を見上げている太子の横顔を盗み見た。
「もしかしたら来年は調子丸が本当にその名の通りに調子がよくなって、何かの世界選手権で遠征に行ってるかもしれないし、あるいは竹中さんが墨汁戦隊スミレンジャーの任務でどこかに出張してるかもしれないだろ?」
「アンタのそのトチ狂った妄想力は何処から来るんだ!!」
「あ、でもそっちの場合はお前も行かないとな、ブラック。」
「行きませんよ!!そもそもその戦隊の一員になった覚えもありません!!」
正直、僕は太子のこういう所が嫌いだ。
さりげなく言った一言がすごく深くて重い気がする。
そしてたった一言のそれに反応してしまって、一瞬の間に色々なことを想像してしまう。
元々ポジティブな思考じゃない。
だから、少なくとも太子よりは現実的な未来図のそれはあまりいいものではない。
在り得ないわけではないそれを思い描いて妙に苦しくなる。
だけど、僕をそんな風にさせておきながら、言った本人は救いようの無いただのアホだった。
正確に言えば太子のこういうことにいちいち反応してしまう僕のこの性格が嫌いだ。
「なぁ妹子、あの一際綺麗な星ってなんていうんだ?」
ほら、今だってもう別の事を考えてる。
「さぁ。元々僕は星に詳しくありませんし。名前の無い星の方が圧倒的に多いですから。」
「むー。よし、なら私が名づけるぞ。」
「止めてください。誰が呼ぶんですかその名を。」
「私と妹子だ。」
「いやですよ。」
「なんだよ、ノリが悪いぞ!」
太子はそこで一度上半身だけ起こして僕を見た。
口を尖らせて言うその表情はあまりにも年不相応で気色悪い。
「じゃぁ特別に妹子に名づけさせてやる!ほら、ちゃんとよく見て考えろ!」
と言いながら太子は空を指差した。
「太子。今指差してる星、さっきのと違いますよ。」
「えっ?!うそ!?あれ、どこ行った!!?」
僕がそういうと太子は慌てて立ち上がって周囲を見回した。
たぶん、この人の記憶力じゃ再び同じ物を見つけるのは無理だろう。
「お前も探せ妹子!」
もし、今流れ星が流れたら、『太子のアホが治りますように』と願うより、『この人がこの人のままでありますように』と願ってしまうかもしれない。
結局また太子のマイペースに巻き込まれてしまっている自分がいた。
Love Lone Star 名前も無いまま何光年旅をしたの?
Love Lone Star 目を凝らして探す僕らが此処に居るよ
Love Lone Star 僕らの大切な星だけどとても遠い
Love Lone Star 目印の無い二人だけの秘密の星
---
不完全燃焼。
書きやすそうとか言っておきながら書きにくかった。
というより自分で書きにくくしちゃった。あぼん。
線香花火の付け間違えは昔よくやった。
song by GARNET CROW『Love Lone Star』
という一言から全部始まった。
すっぽかしたかったけど、あの妙な攻撃を喰らったり、翌日すねて仕事をまたサボられると困るので付き合うことにした。
「で、花火ってこれですか太子。」
夏の風物詩を一気に満喫したい。と、どうしようもなく子供染みたわがまままで言い出したので仕方なく馬にのって海辺まで来た。急遽竹中さんと調子丸君も誘うことになり、いつの間にか話が大きくなっている。
後ろに太子を乗せて黒駒で海岸まで来れた調子丸君にびっくりだ。
そしていざ始めようとした時に、太子が取り出したのはたった数本の線香花火。
「線香花火だって立派な花火だぞ妹子!」
「そりゃまぁそうでしょうけど、始まりから締めまで線香花火じゃ虚しくなるだけじゃないですか。」
「そ、そんなことないわい!お前は風流さというものがわかって無いな!」
と言われても、葉月も半ばを過ぎれば季節もすでに次のステップに入ってるもので、昼間は伴侶を必死で求めるセミの声が聞こえ、夜になれば鈴虫の声が聞こえる。
正直、季節感は混沌としていてわかりにくい時期だ。
「って、太子!そっち火をつけるほうじゃなくて持つほうですよ!!」
「うそっ!?うわっあちち。ちくしょー、わかりにくいんだよこれ。」
僕の声に驚いた太子が思わず手を離す。
落ちかけたそれを反射的に取ろうとして火が付きかけた部分を思いっきり握ったようだ。そりゃ熱い。ついでにまどろっこしい。
僕は太子からマッチと花火を受け取り代わりに火をつけた。
…つけようとした。
「…太子。湿気ってませんかこの花火。」
「マジで?!ガーン!や、やっぱり使い古したティーバックと一緒にポッケに入れてたのがまずかったのか?」
「アンタまだそれ入れてたの?!捨てろっつったでしょアホが!!」
つまり僕は未知なる物が詰まっているポケットの中身の一部を掴んでしまったわけだ。マッチ含む。
最初に気付かなかった僕にも落ち度はあるとはいえ、今すぐ石鹸で手を洗いたい。そしてアルコール殺菌をしたい。
「チクショー!こうなったら星見だ星見!!ほら、寝っ転がれ妹子!!」
「嫌ですよ、敷物もなしに砂だらけにな…って、うわっ、ちょっちょっと!!」
何のためらいも無くその場で仰向けになったかと思えば、太子の意外に長いリーチの腕に捕まり引っ張られる。まさかの不意打ちに僕はバランスを崩した。
せめて顔面直撃は間逃れたいので無理やり体を捻って背中を打つ。くそ、微妙に痛かったぞ。
「ほらみろーすごい綺麗だぞ。」
「はいはい。」
いつも通りのマイペースさをいつも通りうまく御しきれない。
ため息混じりに僕は空を見上げた。
「…確かに綺麗ですね。」
「しかし、花火ちくしょう…。」
「聞いちゃいねえ。また来年にでもやればいいでしょう。」
「馬鹿だなー妹子は。」
他の誰になんと言われようと構わない。
だが、この人にこの言葉を言われるのはものすごく不快だ。腹立たしい。腸が煮えくり返る。
だけど、一言突っ込む前に言われた太子の言葉に、僕は完全にタイミングを見失った。
「来年もまた同じように過ごせるとは限らないだろ?」
「…え…」
僕は思わずアホ面で夜空を見上げている太子の横顔を盗み見た。
「もしかしたら来年は調子丸が本当にその名の通りに調子がよくなって、何かの世界選手権で遠征に行ってるかもしれないし、あるいは竹中さんが墨汁戦隊スミレンジャーの任務でどこかに出張してるかもしれないだろ?」
「アンタのそのトチ狂った妄想力は何処から来るんだ!!」
「あ、でもそっちの場合はお前も行かないとな、ブラック。」
「行きませんよ!!そもそもその戦隊の一員になった覚えもありません!!」
正直、僕は太子のこういう所が嫌いだ。
さりげなく言った一言がすごく深くて重い気がする。
そしてたった一言のそれに反応してしまって、一瞬の間に色々なことを想像してしまう。
元々ポジティブな思考じゃない。
だから、少なくとも太子よりは現実的な未来図のそれはあまりいいものではない。
在り得ないわけではないそれを思い描いて妙に苦しくなる。
だけど、僕をそんな風にさせておきながら、言った本人は救いようの無いただのアホだった。
正確に言えば太子のこういうことにいちいち反応してしまう僕のこの性格が嫌いだ。
「なぁ妹子、あの一際綺麗な星ってなんていうんだ?」
ほら、今だってもう別の事を考えてる。
「さぁ。元々僕は星に詳しくありませんし。名前の無い星の方が圧倒的に多いですから。」
「むー。よし、なら私が名づけるぞ。」
「止めてください。誰が呼ぶんですかその名を。」
「私と妹子だ。」
「いやですよ。」
「なんだよ、ノリが悪いぞ!」
太子はそこで一度上半身だけ起こして僕を見た。
口を尖らせて言うその表情はあまりにも年不相応で気色悪い。
「じゃぁ特別に妹子に名づけさせてやる!ほら、ちゃんとよく見て考えろ!」
と言いながら太子は空を指差した。
「太子。今指差してる星、さっきのと違いますよ。」
「えっ?!うそ!?あれ、どこ行った!!?」
僕がそういうと太子は慌てて立ち上がって周囲を見回した。
たぶん、この人の記憶力じゃ再び同じ物を見つけるのは無理だろう。
「お前も探せ妹子!」
もし、今流れ星が流れたら、『太子のアホが治りますように』と願うより、『この人がこの人のままでありますように』と願ってしまうかもしれない。
結局また太子のマイペースに巻き込まれてしまっている自分がいた。
Love Lone Star 名前も無いまま何光年旅をしたの?
Love Lone Star 目を凝らして探す僕らが此処に居るよ
Love Lone Star 僕らの大切な星だけどとても遠い
Love Lone Star 目印の無い二人だけの秘密の星
---
不完全燃焼。
書きやすそうとか言っておきながら書きにくかった。
というより自分で書きにくくしちゃった。あぼん。
線香花火の付け間違えは昔よくやった。
song by GARNET CROW『Love Lone Star』
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