ま た と ん だ
「―…」
「…い」
「おーい!」
「!?」
気がついたら二見が俺の目の前で手をひらひらとさせていた。
「だいじょーぶですかぁ?宇宙と交信中の方〜。」
ヘラっとした顔でふざけたことを言ってのけた二見をみて、意識しないうちに眉間に皺がよっていた。
すると、当たり前のように二見は俺のそこに人差し指を当てる。
「うるさい。槌谷と一緒にするな。」
わずらわしくなったその腕を払う。二見はわざと女々しく『あら冷たい』などど怖気が走るようにおちゃらける。
「ちなみに今もうすでに放課後。クラスの皆さんほとんどお帰りです。」
「え。」
言われて気付いた。俺の目の前に二見が居るくらいで後は誰も居ない。
一瞬あの時間の中に居るような錯覚を覚えたけど、周りは静まり返っているどころか、イラッとするほど騒がしかった。
「んで、あーたはどうするの?帰るんだったら俺もご一緒しますが?」
「…いや、俺叶先生に授業の事で聞きたいことあるから。お前先帰れ。」
「あいかわらず真面目さんですこと。窮屈じゃない?そういうの。」
「ほっとけ、俺の勝手だ。」
『そりゃそうだ』と半笑いで言った二見をその場に残し、俺はさっさと教室をでた。
無駄な時間をすごすのが一番嫌いだ。
職員室を通過して、科学準備室の前に立つ。
臨時とはいえ一応教師なのに職員室にいるよりもこの部屋に居ることの方が多い。
…というより、この部屋に居るところしか見たことがない。
実は着々とこの狭苦しい空間に、自分の城を作り上げているのではないか、と俺らしくもない下らない妄想が襲う。
「失礼します。」
2回ノックをしてガラリとドアを開ける。
コポコポとビーカーの中で怪しげな音を立て怪しげな色を発している液体を眺める、濃い青色の髪がうつった。
「叶先生。今日の授業の内容でお聞きしたいことが…。」
「・・・・。」
「?」
聞こえているはずなのに振り返らない。転寝しているにしては背筋が恐ろしく真っ直ぐだった。
もう一度声をかけようと息を吸い込んだ。
「やぁ。」
キャスターのついた椅子がぐるりと半回転してこちらを向いた。
手を上げてなぜか至極幸せそうな笑みを俺に向けていた。
「なにかな?」
「いや、だから先生に今日の授業のことで質問が…」
「・・・・。」
「…?」
また先生は何か思案するような顔つきで黙ってしまった。
テンポの悪い会話も嫌いだ。でもまさか先生の前で不機嫌な顔をあらわにするわけにはいかない。
「そうか、先生だ。先生だな。うん。」
「…は。」
「それで、どうしたんだい?」
「!?だ、からっ…!」
だめだ。意味不明すぎる。
次元が違う。槌谷並か下手したらそれ以上かもしれない。
「今日の授」
「へーい!俺を呼んだかーイカロスの翼は太陽に焼かれてウェルダン!」
頭痛と眩暈と吐き気が一編に押し寄せてきた気がした。
「呼んでない。帰れ。」
「でも焼けた翼で墜落したら森は大火事で山火事の全国バケツリレー選手権大会開始〜。」
「人の話を」
「安心したまえ。イカロスは森じゃなくて海に墜落するのだ。」
「おお、自動鎮火完了〜お疲れ様でした〜」
「いい加減にしろ!お前はさっさと水泳部のプールにでも墜落して来い!!」
「あいあいさ〜」
しまった、と思ったときにはもう遅い。
槌谷の鬱陶しい背中を蹴り上げるなど、人前では、特に教師の前ではしたことなどないのに。
蹴られた槌谷は何事もなかったかのように去って行った。
相変わらず台風のような…いや、あいつの場合台風すら退けそうな、前代未聞の天変地異みたいな奴だ。
なぜ俺はあんな奴といるのだろうか。
「ところで。」
俺の後ろから聞こえた、妙に落ち着いた叶先生の声にハッとなって振り返った。
「なにか用かな?」
「・・・・っ!」
無理だ。
このまま鬱積した物を爆発させても許されるんじゃないかと思う。
「もう、結構です!失礼しました!」
持っていた教科書とノートを乱暴にカバンの中に放り込んで、槌谷が半壊にして行ったドアに向かって足を進めた。
「まぁ待ちなさい。コーヒーでも飲んでいきたまえ。」
そこでいきなり叶先生が俺の手を掴んだ。
制服でも腕でもなくて、手を。
「いいえ、もう帰…」
断ろうと振り返ったら、目の前にはすでに、黒い液体が注がれたマグカップ代わりにしているビーカーが二つ用意されていた。
「まぁまぁ。座って座って。」
盛大にため息をつきたいのを堪えて、俺は手近にあった椅子を引き寄せて座った。
冗談じゃない。ただでさえあの鐘のせいで調子が狂いっぱなしなのに。
どうしてまともなはずの現実でもこんな風にならなきゃなんねぇのか。
熱いコーヒーを無理やり嚥下して視線を上げると、先生の背後の窓に夕日がうつった。
―あぁ、もう。今日もおかしいことばかりだ。
----
オーヴァードクロックより。
書きなぐり。
「―…」
「…い」
「おーい!」
「!?」
気がついたら二見が俺の目の前で手をひらひらとさせていた。
「だいじょーぶですかぁ?宇宙と交信中の方〜。」
ヘラっとした顔でふざけたことを言ってのけた二見をみて、意識しないうちに眉間に皺がよっていた。
すると、当たり前のように二見は俺のそこに人差し指を当てる。
「うるさい。槌谷と一緒にするな。」
わずらわしくなったその腕を払う。二見はわざと女々しく『あら冷たい』などど怖気が走るようにおちゃらける。
「ちなみに今もうすでに放課後。クラスの皆さんほとんどお帰りです。」
「え。」
言われて気付いた。俺の目の前に二見が居るくらいで後は誰も居ない。
一瞬あの時間の中に居るような錯覚を覚えたけど、周りは静まり返っているどころか、イラッとするほど騒がしかった。
「んで、あーたはどうするの?帰るんだったら俺もご一緒しますが?」
「…いや、俺叶先生に授業の事で聞きたいことあるから。お前先帰れ。」
「あいかわらず真面目さんですこと。窮屈じゃない?そういうの。」
「ほっとけ、俺の勝手だ。」
『そりゃそうだ』と半笑いで言った二見をその場に残し、俺はさっさと教室をでた。
無駄な時間をすごすのが一番嫌いだ。
職員室を通過して、科学準備室の前に立つ。
臨時とはいえ一応教師なのに職員室にいるよりもこの部屋に居ることの方が多い。
…というより、この部屋に居るところしか見たことがない。
実は着々とこの狭苦しい空間に、自分の城を作り上げているのではないか、と俺らしくもない下らない妄想が襲う。
「失礼します。」
2回ノックをしてガラリとドアを開ける。
コポコポとビーカーの中で怪しげな音を立て怪しげな色を発している液体を眺める、濃い青色の髪がうつった。
「叶先生。今日の授業の内容でお聞きしたいことが…。」
「・・・・。」
「?」
聞こえているはずなのに振り返らない。転寝しているにしては背筋が恐ろしく真っ直ぐだった。
もう一度声をかけようと息を吸い込んだ。
「やぁ。」
キャスターのついた椅子がぐるりと半回転してこちらを向いた。
手を上げてなぜか至極幸せそうな笑みを俺に向けていた。
「なにかな?」
「いや、だから先生に今日の授業のことで質問が…」
「・・・・。」
「…?」
また先生は何か思案するような顔つきで黙ってしまった。
テンポの悪い会話も嫌いだ。でもまさか先生の前で不機嫌な顔をあらわにするわけにはいかない。
「そうか、先生だ。先生だな。うん。」
「…は。」
「それで、どうしたんだい?」
「!?だ、からっ…!」
だめだ。意味不明すぎる。
次元が違う。槌谷並か下手したらそれ以上かもしれない。
「今日の授」
「へーい!俺を呼んだかーイカロスの翼は太陽に焼かれてウェルダン!」
頭痛と眩暈と吐き気が一編に押し寄せてきた気がした。
「呼んでない。帰れ。」
「でも焼けた翼で墜落したら森は大火事で山火事の全国バケツリレー選手権大会開始〜。」
「人の話を」
「安心したまえ。イカロスは森じゃなくて海に墜落するのだ。」
「おお、自動鎮火完了〜お疲れ様でした〜」
「いい加減にしろ!お前はさっさと水泳部のプールにでも墜落して来い!!」
「あいあいさ〜」
しまった、と思ったときにはもう遅い。
槌谷の鬱陶しい背中を蹴り上げるなど、人前では、特に教師の前ではしたことなどないのに。
蹴られた槌谷は何事もなかったかのように去って行った。
相変わらず台風のような…いや、あいつの場合台風すら退けそうな、前代未聞の天変地異みたいな奴だ。
なぜ俺はあんな奴といるのだろうか。
「ところで。」
俺の後ろから聞こえた、妙に落ち着いた叶先生の声にハッとなって振り返った。
「なにか用かな?」
「・・・・っ!」
無理だ。
このまま鬱積した物を爆発させても許されるんじゃないかと思う。
「もう、結構です!失礼しました!」
持っていた教科書とノートを乱暴にカバンの中に放り込んで、槌谷が半壊にして行ったドアに向かって足を進めた。
「まぁ待ちなさい。コーヒーでも飲んでいきたまえ。」
そこでいきなり叶先生が俺の手を掴んだ。
制服でも腕でもなくて、手を。
「いいえ、もう帰…」
断ろうと振り返ったら、目の前にはすでに、黒い液体が注がれたマグカップ代わりにしているビーカーが二つ用意されていた。
「まぁまぁ。座って座って。」
盛大にため息をつきたいのを堪えて、俺は手近にあった椅子を引き寄せて座った。
冗談じゃない。ただでさえあの鐘のせいで調子が狂いっぱなしなのに。
どうしてまともなはずの現実でもこんな風にならなきゃなんねぇのか。
熱いコーヒーを無理やり嚥下して視線を上げると、先生の背後の窓に夕日がうつった。
―あぁ、もう。今日もおかしいことばかりだ。
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オーヴァードクロックより。
書きなぐり。
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