来た客が仏頂面で帰る。
それはもうこの城じゃ当たり前のような光景だ。
―今日は島津の所の使い…か。
恐らく徳川に何かしら仕掛けようと持ちかけてあの人に門前払いされたんだろうな。
もうちょっと歯に絹を着せた物言いをしないとつかめるものも掴めませんよ殿。
家康の真似事をしろっていってんじゃない(むしろそんな事言ったら俺でも斬られそうだ)んだけど時々頭が痛くなることもある。
「殿ー、入りますよ。」
返事が帰る前に殿の部屋を開ける。
殿が執務に集中してるときは来客が誰であろうと入室者の確認をしようともしない。
そこでまず客さんの機嫌が悪くなる。
そりゃそうだろう。
「どうした左近。」
今も俺のほうをチラリと見もしないで問いかけてくる。
「いえね、今日の分の仕事片付いてちょっと暇を持て余したもんですから。」
「なら休めばいいだろう。」
「いやー生憎と真昼間から寝こける芸当は持ち合わせてないんですが。」
そこまで言うと殿の筆の動きが止まる。
そのまま一度立ち上がったかと思えば無駄のない動きで箪笥から何か取り出して俺に渡した。
「ならば其れを使って写経でもしていればいい。
お前の字は時々崩れる癖があるから丁度いいだろう。」
駄目だしされに来たわけじゃないんだけどな俺は。
いっその事殿に女遊びの一つでも教えたほうが有意義に過ごせるんじゃないか。
よもや『赤子はコウノトリが運んでくる』と言い出すのではあるまい。
「殿の仕事手伝ったっていいんですがね。」
「必要ない。」
「たまには碁でも打ちません?」
「打たぬ。」
「・・・・・。」
ちょっとくらいこっち見て答えてくれないもんですかね。
まぁでも執務に集中してるアンタの顔見るのも好きだからいいけど。
「左近。」
「はいはい?」
「…疲れていないか?」
「…はい?」
前触れもなくなんでしょうね行き成り。
俺からすりゃいつ寝てるかわかんない殿の方が疲れている気がするんだけど。
「別に今すぐ休みたいほど疲れちゃいませんが。」
「俺は…」
うーん、微妙に会話が噛みあってない。
…が、何か話し出そうとする殿の表情が少し変わったのは逃さない。
我ながら目ざとい。
「…お前に頼りすぎている気がしてならない。
俺は、俺の言葉は他人を不快にする。それが本意でなくともだ。」
ええそりゃもう。
「左近に対してもそうなっているのではないか。
そう思うと嫌になる。」
「殿…。やっぱちょっとお疲れ気味なんじゃないですか?俺が代わりますから殿は…」
「左近。」
今日はよく人の話遮るなぁ。
「『殿』はやめろ。」
…やっぱ相当疲れてんじゃないのかこのお方は。
「殿、正直言って意味わからないんですけど。」
「今は、…今だけは家臣の島左近ではなく、同志の島左近と話がしたい。」
あ、やっとこっちみた。
「俺にはお前は必要なんだ左近。お前を欠いては勝てる戦も勝てなくなる。
だからお前に過労で臥したりして欲しくない。だが俺はどうしてもお前に頼ってしまう。」
…なんだかんだいって結構思われてる。
それは長い付き合いだから良くわかってる。
けれど直接言葉にして聞くことは滅多にない。
なんだか心配してくれてる殿には悪いけど、今気を緩めるとすごいにやけた顔になりそうだ俺。
「言ったでしょう、俺が餅を付いてアンタに食わせるって。
御膳がそろうまでアンタはしっかり座って待ってりゃいいんですよ。」
「…そう、なのか。」
「『同志』なんですからもうちょっと信用してくださいよ。」
「…すまん、今日の俺はどうかしている。」
おそらく島津になんか言われたんだろうね。
結構繊細だし。不快にさせやすい分逆も大いにあるって所か。
まぁでも、最終的に俺を頼ってきてくれてるんだから俺としては家臣冥利に尽きると言ったっていい。
「左近。」
「はいはい?」
「…俺は、勝ちたい。」
「判ってます。この島左近、命ある限り付き合いますよ。」
どうやら、早い所餅を搗く準備をしなきゃならなそうだ。
----
関ヶ原目前にいろいろネガティブでナイーブになってる三成。
左近は振り回されていると自覚しつつもそんな殿が大好きでしょうがないといい。
それはもうこの城じゃ当たり前のような光景だ。
―今日は島津の所の使い…か。
恐らく徳川に何かしら仕掛けようと持ちかけてあの人に門前払いされたんだろうな。
もうちょっと歯に絹を着せた物言いをしないとつかめるものも掴めませんよ殿。
家康の真似事をしろっていってんじゃない(むしろそんな事言ったら俺でも斬られそうだ)んだけど時々頭が痛くなることもある。
「殿ー、入りますよ。」
返事が帰る前に殿の部屋を開ける。
殿が執務に集中してるときは来客が誰であろうと入室者の確認をしようともしない。
そこでまず客さんの機嫌が悪くなる。
そりゃそうだろう。
「どうした左近。」
今も俺のほうをチラリと見もしないで問いかけてくる。
「いえね、今日の分の仕事片付いてちょっと暇を持て余したもんですから。」
「なら休めばいいだろう。」
「いやー生憎と真昼間から寝こける芸当は持ち合わせてないんですが。」
そこまで言うと殿の筆の動きが止まる。
そのまま一度立ち上がったかと思えば無駄のない動きで箪笥から何か取り出して俺に渡した。
「ならば其れを使って写経でもしていればいい。
お前の字は時々崩れる癖があるから丁度いいだろう。」
駄目だしされに来たわけじゃないんだけどな俺は。
いっその事殿に女遊びの一つでも教えたほうが有意義に過ごせるんじゃないか。
よもや『赤子はコウノトリが運んでくる』と言い出すのではあるまい。
「殿の仕事手伝ったっていいんですがね。」
「必要ない。」
「たまには碁でも打ちません?」
「打たぬ。」
「・・・・・。」
ちょっとくらいこっち見て答えてくれないもんですかね。
まぁでも執務に集中してるアンタの顔見るのも好きだからいいけど。
「左近。」
「はいはい?」
「…疲れていないか?」
「…はい?」
前触れもなくなんでしょうね行き成り。
俺からすりゃいつ寝てるかわかんない殿の方が疲れている気がするんだけど。
「別に今すぐ休みたいほど疲れちゃいませんが。」
「俺は…」
うーん、微妙に会話が噛みあってない。
…が、何か話し出そうとする殿の表情が少し変わったのは逃さない。
我ながら目ざとい。
「…お前に頼りすぎている気がしてならない。
俺は、俺の言葉は他人を不快にする。それが本意でなくともだ。」
ええそりゃもう。
「左近に対してもそうなっているのではないか。
そう思うと嫌になる。」
「殿…。やっぱちょっとお疲れ気味なんじゃないですか?俺が代わりますから殿は…」
「左近。」
今日はよく人の話遮るなぁ。
「『殿』はやめろ。」
…やっぱ相当疲れてんじゃないのかこのお方は。
「殿、正直言って意味わからないんですけど。」
「今は、…今だけは家臣の島左近ではなく、同志の島左近と話がしたい。」
あ、やっとこっちみた。
「俺にはお前は必要なんだ左近。お前を欠いては勝てる戦も勝てなくなる。
だからお前に過労で臥したりして欲しくない。だが俺はどうしてもお前に頼ってしまう。」
…なんだかんだいって結構思われてる。
それは長い付き合いだから良くわかってる。
けれど直接言葉にして聞くことは滅多にない。
なんだか心配してくれてる殿には悪いけど、今気を緩めるとすごいにやけた顔になりそうだ俺。
「言ったでしょう、俺が餅を付いてアンタに食わせるって。
御膳がそろうまでアンタはしっかり座って待ってりゃいいんですよ。」
「…そう、なのか。」
「『同志』なんですからもうちょっと信用してくださいよ。」
「…すまん、今日の俺はどうかしている。」
おそらく島津になんか言われたんだろうね。
結構繊細だし。不快にさせやすい分逆も大いにあるって所か。
まぁでも、最終的に俺を頼ってきてくれてるんだから俺としては家臣冥利に尽きると言ったっていい。
「左近。」
「はいはい?」
「…俺は、勝ちたい。」
「判ってます。この島左近、命ある限り付き合いますよ。」
どうやら、早い所餅を搗く準備をしなきゃならなそうだ。
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関ヶ原目前にいろいろネガティブでナイーブになってる三成。
左近は振り回されていると自覚しつつもそんな殿が大好きでしょうがないといい。
コメント
サコーンがよい男で堪んねスv軍略も腕っ節も立つ男サコーン!(笑)