「お前、こんなのもわからないのか?」
外は時々刻々と太陽が斜陽へと変わりはじめていた。
カーテンを開け放した放課後の教室の床は暁色に滲んでいる。
「なんだよー。教えてやるって言ったのミツルじゃないか。」
ノートの上に鉛筆が転がった。
白い紙は黒い数字で埋もれていた。
ミツルにしてみれば単純明解なその数式のならびも、ワタルには難解な暗号文のように写る。
それでも助力を得ながら立ち向かおうとしているのはミツルも苦笑してしまう程にわかっていた。
「だって此処が比例で…あっ!うー…ん」
ぶつぶつと難しそうな表情をしたかと思えば、時折閃いたかのような笑みを浮かべる。
しかし最後にはまた苦悶の色に戻る。
コロコロと山の天候の様に変わるそれにミツルは気付かれないよう何度も笑みを堪えた。
「あ、そうだ!」
突然ワタルは顔をあげた。
ミツルは「解けたのか?」と問う。
「この後時間ある?」
「…は?」
自分の問いとはどう考えても無関係な答えにミツルは思わず間の抜けた声をだした。
「またあの神社行こうよ!算数教えてくれた御礼に今度は僕が奢るからさ!!」
ワタルの声は徐々にはじけていった。
しかしミツルの顔には何か思案するような皺が眉間に寄っていた。
やがてミツルは怪訝そうに問う。
「『また』…?それに『今度は』って?」
「…え」
「俺はこの学校に来てからお前と神社に行った事なんてないし、お前に何か奢った覚えもないぞ?」
「…でも、だってあの時…」
そこで言葉は消失するように切れた。
−あの時、確かにミツルがいて、
僕にジュース買ってくれて、
炭酸が切れた口の中の傷にものすごく滲みて。
「…ワタル?」
いきなり黙り込んでしまったワタルを下から不思議そうに覗き込む。
からかうようにワタルの眼前で手をひらひらさせてみてもワタルの目の焦点は不確かのまま合うことはなかった。
−でも、此処にいるミツルはあのミツルじゃなくて、でもやっぱりミツルで
『お前は本当にお人よしだな…ワタル。』
あの時のミツルの手も赤い血もあったかくって。
僕だけがミツルの知らないミツルを知ってて…
でもミツルはあの時の僕を知らない
僕には僕の中だけのミツルがいるのに
ミツルの中に僕はいない
「ワタル!!」
「い”っ!!?」
額に尋常じゃない痛みが走った。
涙が滲んだんじゃないかとワタルは額を押さえ席から弾けるように立ち上がってミツルを睨んだ。
「なにすんだよミツル!!」
「急に黙ったまま俺の事無視したお前が悪い。」
ミツルは口端だけを吊り上げ、頬杖をつきながら笑う。
「…しかし」
「…?」
急にミツルも自分の額を押さえ机にうなだれかける。
「お前結構石頭だったんだな…俺も痛い。」
いつも余裕を含んだような態度のミツルが今は目を閉じたまま動かない。
そんな様子をみていたワタルの肩が次第に振るえ始めた。
「…プッ!アハハハハハ!!」
額の痛みと腹を抱えてしまう程爆発的な笑みがワタルの瞳を滲ませた。
「笑いすぎだバカ」
「だって…!!ミツルってば…!!」
ただでさえ苦しい過呼吸の状態で無理矢理紡ぐ言葉は所所に穴を穿つ。
そんなワタルに面白くなさそうに目を逸らした。
その間も堪え切れない笑いを零していたワタルはやがて早々と机の上に散乱していたノートや鉛筆を片付け始めた。
それをみたミツルはワタルより早く身支度を済ませ立ち上がりワタルに背を向けて歩き始めた。
「あ、ちょっと待ってよミツル!」
慌ててランドセルを背負い後を追う。
ミツルはそのまま廊下に進み出た。
「なに怒ってるんだよー」
「怒ってない。俺はそんなお子様じゃないからな。」
ミツルはそこで急に立ち止まった。
ワタルはぶつかる寸前でブレーキを効かせる。
自分の鼻先数センチの所にミツルの背が写った。
「早くしろよワタル。道をしらない俺が先に行っても意味がない。」
そういって繋いだミツルの手は確かに温かかった。
BGM
Mysteruious Eyes or HAREDOKEI
by GARNET CROW
------
原作のベッタベタさを意識しすぎた。
映画版終了後の話を勝手に考えて作ってみた。
あれ?どうしようなんかミツルが受け臭い。
しかし今の小学生の算数って何教わってるんだろう。
外は時々刻々と太陽が斜陽へと変わりはじめていた。
カーテンを開け放した放課後の教室の床は暁色に滲んでいる。
「なんだよー。教えてやるって言ったのミツルじゃないか。」
ノートの上に鉛筆が転がった。
白い紙は黒い数字で埋もれていた。
ミツルにしてみれば単純明解なその数式のならびも、ワタルには難解な暗号文のように写る。
それでも助力を得ながら立ち向かおうとしているのはミツルも苦笑してしまう程にわかっていた。
「だって此処が比例で…あっ!うー…ん」
ぶつぶつと難しそうな表情をしたかと思えば、時折閃いたかのような笑みを浮かべる。
しかし最後にはまた苦悶の色に戻る。
コロコロと山の天候の様に変わるそれにミツルは気付かれないよう何度も笑みを堪えた。
「あ、そうだ!」
突然ワタルは顔をあげた。
ミツルは「解けたのか?」と問う。
「この後時間ある?」
「…は?」
自分の問いとはどう考えても無関係な答えにミツルは思わず間の抜けた声をだした。
「またあの神社行こうよ!算数教えてくれた御礼に今度は僕が奢るからさ!!」
ワタルの声は徐々にはじけていった。
しかしミツルの顔には何か思案するような皺が眉間に寄っていた。
やがてミツルは怪訝そうに問う。
「『また』…?それに『今度は』って?」
「…え」
「俺はこの学校に来てからお前と神社に行った事なんてないし、お前に何か奢った覚えもないぞ?」
「…でも、だってあの時…」
そこで言葉は消失するように切れた。
−あの時、確かにミツルがいて、
僕にジュース買ってくれて、
炭酸が切れた口の中の傷にものすごく滲みて。
「…ワタル?」
いきなり黙り込んでしまったワタルを下から不思議そうに覗き込む。
からかうようにワタルの眼前で手をひらひらさせてみてもワタルの目の焦点は不確かのまま合うことはなかった。
−でも、此処にいるミツルはあのミツルじゃなくて、でもやっぱりミツルで
『お前は本当にお人よしだな…ワタル。』
あの時のミツルの手も赤い血もあったかくって。
僕だけがミツルの知らないミツルを知ってて…
でもミツルはあの時の僕を知らない
僕には僕の中だけのミツルがいるのに
ミツルの中に僕はいない
「ワタル!!」
「い”っ!!?」
額に尋常じゃない痛みが走った。
涙が滲んだんじゃないかとワタルは額を押さえ席から弾けるように立ち上がってミツルを睨んだ。
「なにすんだよミツル!!」
「急に黙ったまま俺の事無視したお前が悪い。」
ミツルは口端だけを吊り上げ、頬杖をつきながら笑う。
「…しかし」
「…?」
急にミツルも自分の額を押さえ机にうなだれかける。
「お前結構石頭だったんだな…俺も痛い。」
いつも余裕を含んだような態度のミツルが今は目を閉じたまま動かない。
そんな様子をみていたワタルの肩が次第に振るえ始めた。
「…プッ!アハハハハハ!!」
額の痛みと腹を抱えてしまう程爆発的な笑みがワタルの瞳を滲ませた。
「笑いすぎだバカ」
「だって…!!ミツルってば…!!」
ただでさえ苦しい過呼吸の状態で無理矢理紡ぐ言葉は所所に穴を穿つ。
そんなワタルに面白くなさそうに目を逸らした。
その間も堪え切れない笑いを零していたワタルはやがて早々と机の上に散乱していたノートや鉛筆を片付け始めた。
それをみたミツルはワタルより早く身支度を済ませ立ち上がりワタルに背を向けて歩き始めた。
「あ、ちょっと待ってよミツル!」
慌ててランドセルを背負い後を追う。
ミツルはそのまま廊下に進み出た。
「なに怒ってるんだよー」
「怒ってない。俺はそんなお子様じゃないからな。」
ミツルはそこで急に立ち止まった。
ワタルはぶつかる寸前でブレーキを効かせる。
自分の鼻先数センチの所にミツルの背が写った。
「早くしろよワタル。道をしらない俺が先に行っても意味がない。」
そういって繋いだミツルの手は確かに温かかった。
BGM
Mysteruious Eyes or HAREDOKEI
by GARNET CROW
------
原作のベッタベタさを意識しすぎた。
映画版終了後の話を勝手に考えて作ってみた。
あれ?どうしようなんかミツルが受け臭い。
しかし今の小学生の算数って何教わってるんだろう。
コメント
もう、もう可愛すぎるよこの二人…!!ミツルの「石頭」発言が映画の彼らしくてすごく好き。
ちなみにミツルが受けくさくなるのは仕様ですな(笑)
私も意識しないと二人とも受けくさくなる。
そういや小学生の頃って何教わったっけねぇ…足し算引き算掛け算あたり?
まさかこんなに気に入ってくれるとは思わなかったから、私としても嬉しいよ。