逃げたいのは現実

2006年1月17日 SS
「・・・・・。」
「どうした?降参かい、甘寧さんよ。」

フン、と一つ鼻で笑い腕を組みながら、目の前の碁盤と険しい顔でにらめっこしている男に、この上なく楽しそうに聞く。
一方の甘寧は、眼力でこの碁でも動かし始めるのではないかと思うほどしばらく無意味になまでに力を入れて打開策を立てようとするが、やがて数秒粘ったのち全身の力を溜息と共に抜く。

「あー…!くそ、参ったよ。ったく、これで10戦10敗かよ。」
「へ、俺に勝とうなんて100年早いっての。」

得意げに頬杖を付いて笑う凌統をよそに、甘寧はもう一度溜息をついて、後頭部を掻きながら勢いよく立ち上がった。



―リン



「…なぁ。」
「あん?」
「なんでいつもお前ソレつけてんだ?」
「ソレって…この鈴のことか?」

急に声の張りがなくなったことに気づいてはいないらしい甘寧は、ソレと言われ向けられた視線を追った。
目的のものに見当をつけた甘寧は指先で鈴を弄んだ。




―リン、リン、リン



「敵さんに『俺はここにいますよー』って言ってるようなもんじゃん。」





―木魂する、音。忘れてはいけない、あの、音。




「おう、まさにその通りよ。」

凌統の言葉にさも誇らしげに胸を張った。あまり期待していなかった返答に凌統は甘寧を視線だけで見上げた。

「『死にたくない奴はこの音が聞こえたらさっさと逃げやがれ、この甘寧様がやってくるぜ』って警告してやってんだよ!そうすりゃ無駄な雑魚相手にしなくて済むだろ?」
「…っけ、猪武者の考えそうなこった。」

耳を塞ぎたくなる様な感覚に陥らないようそこから視線を外す。
自分からふっかけた話題なのに最悪な気分になってしまうとは、我ながら見事な墓穴ほりだ。と内心で舌打ちをした。





―父上も、この音を聞いたのだろうか。

その時、父上はどう思ったのだろう、この耳に張り付くような音を。









―『敵は斬る!仲間は守る!!それだけだ!!』




―鈴の音と一緒に聞かされたあの言葉。憎い、憎くて仕方が無い音。





リン、


「…い」

リン、リン

「い!おい!!凌統!!」
「んぁっ何だよ、デカイ声だし…て。」

突如自分によってきた音と大きな声にハッと我に返った凌統が顔を上げるとそこには予想外に近くにあった甘寧の顔。
凌統は思わず反射的にわずかに仰け反った。
目の前のそれはさんざん無視されたからか眉間に皺がよっている。甘寧は腰をかがめて数センチ先の凌統の顔を覗き込んだままだ。

「おめーが呼んでも答えねぇからだろうが!おら!もう一局付き合え!今度は負けねぇからな!」

どん!と乱暴な音をたてて、椅子代わりに使っている木箱に腰を下ろした。その時木箱がメキっと音を立てた所を聞くとどうやらその寿命は長くなさそうだ。



リン。





「…なんどやったって俺には勝てないっつーの。」
「言ってろ!!」









木魂する、忘れてはいけない音。






これが聞こえる限り、確かにコイツは、ココにいる。







「そんじゃ、始めますかね。」



凌統は可能な限り、目の前の碁盤に集中しようとそれだけを思った。










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あは、書いちゃった★(ねちっこく)

こんど編集して言語りにupしなおそうかしら。



☆拍手レス☆

19時頃の方々たくさんの拍手ありがとうございました。
明日明後日と試験のコンボに悲鳴を上げそうです。

コメント

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